文具愛好家の間では、最近活版印刷の人気がすごいですよね。先日もノベルティ関連の展示会に行きましたら、最新印刷技術よりもむしろ活版印刷に特化した押し出しを行っている会社さんなどもあり、「最新の活版」をアピールしていました。こんなお礼状が届きました。
魚が一匹入ってまして、それも活版でギュッと凹凸表現がつけてあります。
昔ながらの活版印刷職人さんが言うには、いかに凹凸をつけずにフラットな印刷をするかが腕の見せどころなのだそうですが、活版ファンは逆で、いかに凹凸がついているかが楽しいわけで、もうわざとらしいほどに押してますね。面白い現象です。
そんな折、夜中に偶然テレビつけたら、こんな番組がやってまして、食い入るように見てしまいました。
2015年5月4日放送、テレビ朝日系列のテレメンタリー2015
「たった一人の新聞社~活版印刷で半世紀~」。
ナレーションは乃木坂46の生駒ちゃん。淡々といい感じで読み上げます。
主人公は秋田・上小阿仁村にある小さな新聞社「上小阿仁新聞」の社長兼、編集長兼、文選工兼、印刷職人の加藤隆男さん(80)です。
上小阿仁村は人口2400人あまり、高齢化率50.2パーセントで、2人に1人が65歳以上という典型的な日本の田舎。
49年前に創刊した地域新聞である上小阿仁新聞を、加藤さんは今ではひとりで運営しています。
取材、原稿書き、レイアウト、活字拾い、印刷。全部ひとりです。
こうした鉛の活字を見ると、われわれは勝手にワクワクドキドキしてミーハー的に喜んでおりますが、加藤さんにとっては少なくともそういう対象ではありません。
裏表一枚の上小阿仁新聞新聞の活字拾いには丸3日かかります。
正直、ワードで打ち込めば、早い人なら1時間で済んでしまう文字量でしょう。
一面ずつ、新聞の紙面を組んでいきます。試し刷りをして具合の悪いところは微調整を繰り返します。
上小阿仁新聞は、最盛期の発行部数1600部、現在では400部。毎週日曜日に発刊され、購読料は400円です。
昔はたくさん広告が集まりましたが、今ではほんの少し。計算すれば儲けなしのお仕事であることはすぐにわかりますよね。
刷り始めれば、400部の印刷は一時間で終わります。
刷り上がった瞬間はホッとするそうですが、同時に次のために解版という活字を戻す作業があります。切れ目のない仕事。
加藤さんは「何も暇なんかねぇ。」と笑います。
こうした作業を毎日毎日、半世紀。
「待っている人がいるから」
その使命だけで、加藤さんはずっと新聞を作り続けて来たのです。
例えばわれわれが書いているようなこんなちょろいブログのほうが、多くの人に伝わるのに効率がいい。
それは加藤さんも十分わかっておられるのでしょうが、決して流されない。職人のプライドと楽しみにしてくれている読者さんの顔を知っているからこその変わらぬ活字の新聞。
自分がちっぽけに思える壮大な自然を目の前にしたような、なんとも言えない尊さが伝わってきて、ひとり夜中に目をうるうるさせてしまいました。
加藤さん、どうかこれからもお元気で。発信する者の大先輩として、背中見せ続けていただきたいと思います。
(5/11追記)
検索したら、ほぼ日さんも昨年取材していたことがわかりましたので、リンクさせていただきます。動画もありますので貼っておきますね。